出版物のネット掲載は、御法度ではあるのですが
すでに絶版で60年近くの昔の「骨董品」の一部は、どうなのでしょう?・・・

『夏の花だん』 と題された挿し絵。
今から60年近く前の1963年に発刊された
『小学館 学習図鑑シリーズ25 花と園芸の図鑑』の中で
夏の章の冒頭に掲載。

小学校に入るぐらいまでいつも眺めていた挿し絵だった。
当時、一番のお気に入りのイラストだった。
そして
19才のころから今まで
夏になると時折思い出すイラストでもあった。

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blog200801_01イラストには、たいがい「ネタ元」がある。
この『夏の花だん』もそうだ。

イラスト奥に描かれているような
テラスがある家なんて、1960年当時は都会にしかなかった。
察するに、両親の雰囲気からしてアメリカあたりの
ガーデニング雑誌か、「スターお宅訪問」の
ような芸能誌の写真を参考に描かれたのではなかろうか。
両親と少年は、笑顔でリラックスしているなど
図鑑イラストの人物描写としてはめずらしく自然体に
描かれている。

おそらく、両親と少年のモデルは映画スターの一家で、
下の少女(妹?)は付け足しではないかと。
あくまでも想像だけど。

ところで、このイラスト。
『夏の花だん』 と題されているが、
このイラストは実質的に、少年を主に(または庭全体と少年を主に)描かれている。
正確なタイトルをつけるなら、『夏の日の少年と庭』だ。

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少年を起点として、花壇や通路・くの字池が、放射状に広がった構図になっている。
(上図 黄色線)

少年を起点として、背景のテラス床・くの字池・イラスト下部の盛り土が
「ジグザグ(稲妻)」状に繋がり、絵全体の広がりに役立っている。
また、それらを直線的な濃色にすることによって、イラスト全体にメリハリ感を与えている。
(上図 水色線)

少年を中心として、葉っぱや花が少年を「波紋」状に取り囲んでいる。
(上図 ピンク線)

そして
少年の服の色は赤。それを際立たせるように背景の父親は補色の緑。
両親はうっすらとぼかし気味で、手前の少女は後ろ向きで顔や表情を隠すことにより
あまり見る人の注意をひかないようにしている。

これらの「読者(観る人)の視点を少年に集める」構図をとっている事から鑑み、
「少年と花だん」というテーマを意図して描かれたのは明らかだ。
その狙いは、読者たちにイラストの中の少年への感情移入をさせることだろう。
・・・広くて日当たりの良い庭、まぶしくて清潔な芝生、金魚も飼える池、
整然と咲きみだれる花たち、上品で優しい両親・・・
ホースの端を踏んで、のぞいたら水をふかせる兄や
近所の粗暴な悪ガキどもがいない世界・・・
少なくとも、その狙いにすっかりはまった元読者少年がここにいる。

余計なことだが
少女は、遠近法から考えると1.5倍ぐらい大きくしなければならないのだが
『夏の花だん』では、必要以上に小さく描かれている。
また、手前の草花は遠近法で描かれるならばもう少し大きくしなければならないのに
それはスルーされている。
これは、読者に草花のそれぞれの大きさに誤った情報をつけさせないためだろうと思われる。
そのため『夏の花だん』のイラストは、空間の広がりと非遠近感を両立させたため
全体空間にどことなくいびつな雰囲気を持ってしまった。
でも、それはしょうがない。あくまでも「図鑑」であり、「風景画」ではないのだから。

18才の時、あれほど好きだったイラストだったのに
「それは昔のこと」と、深く考慮しないで他の図鑑や本と一緒に廃棄してしまった。
その他の図鑑たちにも好きな挿し絵がいっぱいあったのに・・・・。

中高生となり、以前ほど見なくなったとはいえ、
いつも目につく本棚に日焼けで色あせながらも並べられてはいたのだが
ちょうど高校卒業と同時に上京する時だったので
これから新しい世界に進むにあたって、古臭くて、中学高校の辛い記憶をも呼び起こす
ようなものは何もかも手放したかったからだろう。

でも、
失ってから、それが大切なものだったことに気づくことが往々にしてあるもので
翌年から夏が来る度に、ふと、
『夏の花だん』のイラストを(フラッシュバックのように)思い出してしまっていた。
それだけ深く刻み込まれたものだった。

blog200801_03年前に立ち寄ったリサイクルショップで
同じシリーズの図鑑たちが
「ご自由にお持ち帰りください」という
張り紙と共にあるのを発見。
「膝から落ちるような」感覚に陥り
思わず全冊もらい受けてしまい
こんな昔の図鑑が容易に手に入るのかと驚きつつ、
その後ヤフオクで今回の『夏の花だん』の図鑑や
他の図鑑を少しづつ揃えていった。
(写真はそのうちの一部)

ブログ等で『夏の花だん』のイラストについて熱く
思い出を語っている人達もいて
同じ思いの人間は、自分だけではなかったことも
知った。

この図鑑の挿し絵担当は5人連名で記載されているだけのため、
『夏の花だん』の作者は不明だが
この絵を描いたイラストレーター(挿絵画家)は、うらやましいほどの幸福な人だと思う。
このイラストを描けるほどの画力と経験、才能、そして環境と機会を得て
たくさんの人に影響を与え、半世紀以上も残る仕事をしたのだから。

夏が来れば思い出すイラストの話でした。拙文すみません。